サンガの寅さん

中学生が理解、批判できる、をモットーとしていますが、記事が健全な中学生には、不適切な内容のこと、もあります

書評について一言

 二月十二日の毎日新聞「今週の本棚」に作家・元外務省主任分析官である佐藤優による『キリスト教教義学 上』(著/近藤勝彦 教文館)の書評がありました。私は佐藤の著作から、思想関連のものを中心に(インテリジェンスやそのたぐいのものは私にはよく分かりません)多くのことを学んでいます。
 

 まず当該書の意義について、以下のように簡潔、有意に紹介されています。
 

 日本の代表的組織神学者である近藤勝彦氏(東京神学大学名誉教授、同理事長)による本書は高度な学術的内容を維持しつつ、神学を専門とする人以外にも理解できるようなていねいな記述につとめた作品だ。ちなみに組織神学とは、キリスト教の理論や倫理を扱う分野である。

 また、

 神学書は、著者のバイアスがわかるような形で書かなくてはならないのだ。近藤氏はプロテスタントの立場からキリスト教の教義を解説する。

 ここで、神学的に真摯に書き上げられた著作なのだ、と強調されています。人間中心(万能)主義のような自己中心の解釈でなく、伝統的に積み重ねてこられた「知」を受け継いでそこからの立ち位置で解説することで、倫理を表出できるものなのかもしれません。
 
 まとめの言葉がまたイイ。 

 人間はいつか死ぬ。その前提の下で生きている。また一人ひとりの能力、適性は全て異なる。その制約条件の中で誰もが無限の可能性を持つのである。神について知ることで、われわれは制約の下での自由を享受するのだ。

 これも人間中心(万能)主義への批判です。私は「無神論者」に分類される、という自己規定を持っていますが、「神」がわれわれ一人ひとりのその「在ることの」根拠とされるなら、それが神であるならば……。それへの信仰は持ちませんが、それを信じます。「われわれは制約の下での自由を享受する」ことへひらかれる道が、そこにこそあるのかもしれません。

 良書であることがひしひしと伝わってきます。しかし14,300円です。下巻も同じような価格とすると、3万円弱にもなってしまいます。思い切ってもなかなか手の出るものではありません。

 そのことで”いじけた”者の意見ですが、「読書人」や「読書新聞」などの書評専門紙などでの書評なら有意義なのでしょうが、一般全国紙での紹介でこの金額の書籍は、ごく一部の人への紹介にしかなりません。それでは書評者からの書評でなく、メッセージになってしまうのではないでしょうか(金額的に入手困難な書籍を書評として紹介されても、困ってしまいます)。書評は掲載側が「この書籍について書評を」と書評子に依頼(数冊の中から選択しているのかもしれませんが)しているのだと理解しています。ならば、自身の紙面の特徴を理解して候補をあげるべきではないでしょうか。
 
 しかし、佐藤によるこの小文は有意義かつ示唆に富むものです。引用したところだけからでも、それはうかがえると思います。