サンガの寅さん

中学生が理解、批判できる、をモットーとしていますが、記事が健全な中学生には、不適切な内容のこと、もあります

虐殺器官


虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)感想
器官とは「動物の目・口・胃や植物の根・葉・花などのように、生物体の内部で特定の機能や形を持っていいる部分」(新明解国語辞典)。形あるものを機能面として見ていると言ってよいだろう。そして、虐殺器官とは、ことばのことだという。どんな言語であれ虐殺の文法がある。

 ジョン・ポールは、それを、過去の虐殺のデータを分析して見つけた。ことばは、虐殺の文法に従って利用できるのだ。シェパードが、宗教を、人間の肉体を離れた崇高な中枢があるとして、「魂の生が重要」と殺人の罪の軽減に利用したように。そのジョン・ポールの来歴はPR会社、貧しい国の文化宣伝顧問として、他国へ窮状と魅力をアピールするが、それが、プロパガンダで国内に目を向けさせる方向へ転換させ、不満をあおることで国内に敵味の分断をつくり、内戦に導く。

 ことば、身体と魂の。身体は外にあり思うままに加工できず、向き合わなければいけない。魂はイデオロギーとして扱える。身体のことばには、理性が立ち入ることができない。目の前でおこった出来事(経験)が、肉体に訴えかけるものであるから。対して、魂のことばは、出来事(経験)が情報として客観化されたところから生み出される。理性で処理されイデオロギーと化したものとなる。虐殺は現実・身体的であるが、多くの場合、イデオロギーによってもたらされる。そして、虐殺という悲惨な現実は、当事者にとって崇高なイデオロギーに基づくものとして、悲惨な現実の直視から逃れることが可能なものとなる。

読了日:12月03日 著者:伊藤計劃