サンガの寅さん

中学生が理解、批判できる、をモットーとしていますが、記事が健全な中学生には、不適切な内容のこと、もあります

増補感想2211 その4

(19)家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ (角川新書)
「法は家庭に入らず」という精神は、明治民法から現在まで引き継がれており、家族は愛情によって結ばれている聖域だから、法的拘束力は必要ない、という観点に立脚している。言い換えれば、無法地帯でもあり、力関係があからさまである、ということ。そこで「家父長的権力という構造そのものに根差す暴力」があったとしても、愛情空間である家族という聖域のなかには、暴力など存在し得ない、という前提があるから、それは「愛情の発現」とされてしまう、と言う。DVや児童虐待などが後を絶たず、それへの対応のまずさの原因もそこに求められる。家族の価値に重きが置かれ、その私的空間が公的なものから切り離され、介入がためらわれる事態になっている。家族と国家は共謀して被害者を被害者であるままにしている。
読了日:11月19日 著者:信田 さよ子
https://bookmeter.com/books/17519307

 

(20)日本共産党-「革命」を夢見た100年 (中公新書 2695)
終章を熟読していただきたい。そして、興味がわけば関連年表と目次を参照して読み進めてほしい。その終章のタイトルは「変化を遂げた100年」であり、その100年の歴史には様々な変化があったのだから、とそこに左翼政党としての可能性を見ようとする、大きな保留をつけてだが。上意下達である民主集中制負の遺産の多い党名を変えないこと、への自己批判が必要なのである。党(名)の維持が何より優先され、日本の政治状況への影響力の行使を軽視する、その唯我独尊的な態度から転向し、これから共産党が向かうべき方向として、既存の政治・経済体制の枠内での改良に努める社会民主主義政党と、既存の体制を問題としてみるニューレフト的な民主社会主義への移行、をみている著者の見解にはうなずけるものがある。
読了日:11月20日 著者:中北 浩爾
https://bookmeter.com/books/19663826

 

(21)はじめてのスピノザ 自由へのエチカ (講談社現代新書)
自分のコナトゥス(ある傾向をもった力)に従って生きる。しかし、それが外部の力によって支配され実現できなくなると、自殺など、自身にとって否定的な現われになることさえある。それは、自己実現の自由、と環境ではなく支配によって強制される不自由。私たちは、行為を自分の意志で行ったことを自由と意識してしまうことがあるが、それは意識が結果だけを受け取るためだという。自由とは行為ではなく、自身のあり方なのだ。私は男や女であるが、それ以上に具体的な環境と歴史と欲望が交差する中で生きており、その影響のなかで出来上がる「力」、を本質として私はあり、それがコナトゥス(力=私)として生かされる。個人を男や女などという規定の枠にはめ込み、その力を踏みにじるのが不自由の典型。
読了日:11月20日 著者:國分 功一郎
https://bookmeter.com/books/16964330

 

(22)父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。
交換価値と経験の価値とを対比が興味深い。経済学者は市場の基準ではかり、経験の価値を軽んる皮肉屋で、現代社会はそのような皮肉屋の論理が支配的である、と言い、あらゆる領域にその影響力が及んでいる、とする。市場は公的価値に従い、経験は個人にとって価値がある。市場で交換されるには商品化されなくてはならない、たとえそれが、労働力としての人や土地や環境であっても、交換されるものであれば。交換価値を高めるための、惨事便乗型資本主義さえ現実となっている。また、公共の福利でさえも、負担と受益という交換の論理に回収されている。このような社会は、交換の場で優位にある者=支配者だけが国を支配する権利を持っている、と庶民に固く信じさせなければ維持できない、根拠のないイデオロギーをでっち上げてでも。
読了日:11月22日 著者:ヤニス・バルファキス
https://bookmeter.com/books/13571753

 

(23)死者と霊性: 近代を問い直す (岩波新書 新赤版 1891)
死者として「立憲主義」と「礼」が挙げられている。立憲は既に死者により成立している憲法が今を生きる者の民意(民主)を制限する、今在る者の利害判断である民主の暴走を防ぐのだ。憲法は様々な経験を重ねた過去から、今在る者、そして未来へ向けた遺言でもある。そして、礼の根幹は死者を先祖にするためのパフォーマンスなのだという。つまり、立憲も礼も死者との向き合い方。たとえば、大事な人が亡くなると、まず喪失感に囚われるだろう、その人の存在が無くなってしまったのだから。残されたのは記憶だけであろうか。いや、その人は死者として存在し、向き合う関係を持つことで今ある者を制限している、倫理の源泉なのだ。この関係こそが霊性に導かれているのだ、と言えよう。
読了日:11月23日 著者:末木 文美士
https://bookmeter.com/books/18354464

 

(24)マホメット (講談社学術文庫)
マホメットは宗教家であるだけでなく、優れた政治家でもあった。その教義は属する部族からの反感を受けたためにメッカを追われ、メディナで異部族のなかに同志を募ろうとしたためか、啓示内容がメッカ時代の終末観的表象から、メディナへ移ると現世的になり、日常茶飯事まで干渉するようになった、という。預言者から伝道師への重心の移動。このため啓示は神の永遠的なものから「歴史の地盤上において」「受肉し現実となる」。これが行動規範としてのイスラーム法であるが、それは「歴史的現実となることによって人間的なものに汚染し、次第に歪曲されて行く運命をもつ」ものとなってゆく。そのために様々な解釈が可能となり、その不安定さが、イスラーム以前ベトウィンの昔から過去こそ価値という習俗とつながり、イスラームは「純真無垢な宗教としての本来の姿に」とする傾向に傾き、原理主義へと変移しやすくなるのだろう。
読了日:11月24日 著者:井筒 俊彦
https://bookmeter.com/books/22180