サンガの寅さん

中学生が理解、批判できる、をモットーとしていますが、記事が健全な中学生には、不適切な内容のこと、もあります

増補感想2211 その3

(13)資本主義と民主主義の終焉――平成の政治と経済を読み解く (祥伝社新書)
1995年は、阪神淡路大震災地下鉄サリン事件沖縄県民総決起大会があった1年。そして、経団連から「新時代の日本的経営」という報告書が出された。それは労働力の流動化を進め、人件費節約をはかるというものであり、資本は強化され労働者(組合)の弱体化が始まった。さきの三つの出来事とともに、今に至る大きな課題を知らせ続けている。そして社会の福利の資源である税金面では、1990年では税収60.1兆円、GDP451.7兆円。2018年では60.3(本書では予算ベースで59.1と記されている)兆円、548.9兆円だが、90年の率で計算すると73兆円の税収になるのだから、このGDP優先が社会の劣化につながっている。現在の民主主義には、資本主義による一定の生活水準の維持が必要としているのだろうから、両者の終焉があらわれてきている、と感じる。
読了日:11月11日 著者:水野和夫,山口二郎
https://bookmeter.com/books/13742377

 

(14)愛と暴力の戦後とその後 (講談社現代新書)
赤坂真理は日本の中学を出てアメリカの高校へ一時通っていた。それは親が「軍国主義みたいな日本の学校制度」から逃したかったからだろう、と推測している。彼女は親からみても学校に馴染めなさが目に付いていた、という自覚を持っていたのだろう。注目すべきは、彼女自身には「逃れたい」という意思を明確なものとしてはなく、何から逃れどこへ逃れるのか、という求めるものはなかったと推察されること。だから逃れた先のアメリカでも落ちこぼれ、別様の屈折をかかえた、と振り返っている。そんな馴染めなさに敏感な彼女の指摘している様々な違和感だから、立ち止まって考えさせられる。生活者が不信・不安にとらわれるのは、「管理側の論理と都合が最優先」にされていることが日本に閉塞感をもたらしている、からだろうと推測される。
読了日:11月12日 著者:赤坂 真理
https://bookmeter.com/books/7965709

 

(15)そろそろ左派は〈経済〉を語ろう――レフト3.0の政治経済学
お金儲けは素晴らしいことだ、それにより多くの負担ができ、弱者の手助けとなるのだから、とそれは現実からはかけ離れた理想論だけれど。世の中はそのような在り様には程遠い、ということを踏まえてなのだろうが、本書では「経済にデモクラシーを」と表明している。つまり、経済の効用があまねく行き渡ることを目的としなければいけない、ということである。それを軽視しているから、「大事なのは経済だけじゃない」が変質して「経済は大事じゃない」となった、という姿勢を持つ左翼の弱さにつながったことを指摘している、経済という土台をを見ないようにしていると。「経済にデモクラシーを」が優先されない最大の問題点に、エッセンシャルワーカーの待遇の悪さにあるといえよう。良好な待遇であれば安全安心も改善されるし、得た収入が消費へ回る、という良好な循環の経済の実現が必要と痛感させられる。
読了日:11月13日 著者:ブレイディ みかこ,松尾 匡,北田 暁大
https://bookmeter.com/books/12786410

 

(16)岩井克人「欲望の貨幣論」を語る
貨幣が社会に行き渡ることで「自由と平等」がもたらされ、そこには、貴族であれ庶民であれ、おカネを払えば誰でもその価値のモノが買える自由と平等がある。1万円を持っている人間同士はその価値を自由に使える平等があるということ、おカネの前には身分差はない。しかし100万円を持っている人と1万円持っている人は、当然、商品購入の場では平等ではない。それが所得や資産の格差がもたらすものであり、そこに新たな不平等を生まれる可能性が内在しており、自由と安定の二律背反を生きて行くしかない社会が現れる、という。交換過程でおカネを主体とすると、仕事と交換に「おカネを買ってい」て、その「おカネを売って」交換でほしいものを手に入れていることになる、おカネが将来も価値を持っていることを根拠として、という興味深い指摘がある。
読了日:11月14日 著者:丸山 俊一,NHK「欲望の資本主義」制作班
https://bookmeter.com/books/14784466

 

(17)水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと (集英社新書)
水道は最も重要なインフラだから、利益という基準には適さないので、競争・排除・対立という価値観ではなく、共生・包摂・協力へ、そのためにこそ市場に任せずに、政治のフェミナイゼーションに属するべきという。それには、住民と密接な関係にある自治体主導によるものを重視し、国家や(グローバル)資本の価値観に対しての優位さの実現への道を模索しなければいけない。今の世界では自治体は国家や資本というシステムがなければ成り立たないが、それらは自治体の活動のための影のような存在であるべきだろう。自立した、市民の声が届く多様な自治体同士の、様々な試行への接点を介した縁による連携やサポートが重要な鍵となる。
読了日:11月17日 著者:岸本 聡子
https://bookmeter.com/books/15379637

 

(18)イスラム教の論理 (新潮新書)
イスラム教では、コーランハディースというテキストを拠り所とした教義が重視される。たとえ、そこに記されている内容に矛盾があったとしても、アッラーの言葉であり、神の御心であるのですべては調和し整合されており、矛盾と見えるのは、さかしらな人間の解釈、という前提がある。かつては、それを統合・体系化された知としたのが、「高尚な知識」を独占していたイスラム法学者による解釈であった。しかし、インターネットの普及らにより誰でも聖典に触れることが可能となったことで、神ならぬ自分の都合で解釈をするようになり、拾い読みで偏った解釈によるもので、「異端」にさえならないような教えが可能となった。本来、イスラムの教義では物事はそれ自体に善悪はなく、善悪は神の判断にゆだねられている、そこに人間の理性が入る余地はないにもかかわらず。
読了日:11月19日 著者:飯山 陽
https://bookmeter.com/books/12628322