サンガの寅さん

中学生が理解、批判できる、をモットーとしていますが、記事が健全な中学生には、不適切な内容のこと、もあります

ヴァギナ ナオミ・ウルフ

ロシア語通訳にして優れた作家であった米原万里は一日に七冊の本を読むことを日課としていたという(『打ちのめされるようなすごい本』文春文庫)。ということは一か月に210冊になり、例えば一冊2000円ならば総額420,000円になってしまう。読書スピードもさることながら、出費額にも驚いてしまう。月に20,000円の出費でも踏ん切りのつかない当方とは大違いである。

そのような事情もあってか、出版時に「女性の骨盤神経は繊細で傷つきやすく、男性と同じ活動には適しておらず、男性の身体を基準として設計されているスポーツなどでの危険性にもつながる」というような趣旨の書評があり、気になっていたナオミ・ウルフの『ヴァギナ』をようやくブックオフで見かけて購入した。(出版が二〇一四年だから六年前のことだから、多少の記憶のすり替えはあるかもしれない。)

…引用…
 クリトリスオーガニズムは以前からいつも感じていた。三十代に入ってから「混合オーガニズム」、つまりクリトリスのほかに膣のオーガニズムも知り、精神的な経験に深みがくわわったように思えた。セックスのあとは心にも体にも心地よい情感の波が押し寄せた。……略
 ……略
 ある日のこと、……私は気づいた。……セックスは単に肉体の悦楽になっている。すばらしいのには変わりないが、感情を満たす意味深いものではなくなった。肉体は快楽を欲したが――それを満たすのは飢えを満たすのと変わらない――詩的なものはもうない。
                         (二二~二三頁)
 
セックスは肉体的なものだけでなく精神的な充足をも満たすものでもある、ということは男性である私にも理解できる。しかし著者のいう「詩的なもの」という実感は理解できない。それは男性であるからなのか(女性であっても)セックスの経験の質の相違なのであろうか、判断ができない。

そのような事態に不安をおぼえた著者は婦人科医を訪れ原因を告げられる。「かつて椎骨を割ってしまい、それが原因となって時とともに脊椎が膣管につながっている骨盤神経を圧迫した」という。

…引用…
 ネッタ―解剖図を見ればわかるとおり、女性の骨盤神経の網の目は複雑である。女性の生殖器の神経支配が人によって違うのはそのためだ。それに比べて男性の骨盤神経の網の目は画一的である。ほぼ規則正しい格子状の神経経路がペニスの周囲に集まっていて、もっと単純に見える。女性の生殖器の神経がずっと複雑なのは、わたしたちが子宮頸部と子宮のような、男性にない性と生殖の器官をもつためである。
                         (三四頁)

著者に生じた障害は、スポーツなどで体に負荷をかけたときにも起こりうるのではないだろうか。ただ筋肉を鍛えることで骨盤神経が守られるという要素もあるが、加齢に伴って筋力は衰えやすくなる。つまり、男性の身体に即して設計されているスポーツなどに、その範囲での肉体的特質を考慮されていない女性がそれに臨むことは適切でないはずだ。

複雑な骨盤神経をもっている女性にとっては

…引用…
 多くの神経経路がクリトリスからはじまる女性がいて、そういう人はヴァギナの神経はあまり密ではないだろう。だからクリトリスへの刺激を好み、ペニスの挿入ではそこまでの刺激を得られないかもしれない。ヴァギナに多くの神経が分布している女性は挿入のみでクライマックスに達する。会陰や肛門の周辺に神経経路の末端が集中している女性もいる。この場合はアナルセックスを好み……略
                         (三五頁)
                         
という仮説を述べている。しかし、アナルセックスは男性であろうが女性であろうが好む人はいるが、「ペニス周辺に神経経路の集まる男性」との違いはあるのだろうか。などと、初めて直腸検査をしたときに「オット!」と思ってしまった私は変なことまで考えてしまう。それはさておき、この仮説から彼女は「あなたがベッドで何を好み、何を求めようと、それは単に神経の物理的配線のせいなのかもしれないのだ」(三六頁)とモラルに起因する罪悪感と羞恥からの「解放」見出している。

 

この項続く