かつて、ありました

　平成十二年（二〇〇〇）四月二日、小渕恵三首相が脳梗塞の病に倒れて緊急入院し、四月五日には森喜朗自民党幹事長が新首相に就任した。一寸先は闇、まことに予期せぬ展開に驚きをおぼえた。そのとき話題になり、人々を憂慮させ批判を受けたのが、二十二時間という時間であった。それは、政治家としては青木幹夫官房長官とその他数人が、小渕氏の入院と病状を把握し、外部には隠していた時間である。国家の最高指導者、指揮官である首相が、病気により判断不能の状態に陥っているにもかかわらず公表せず、しかも病状を知りえた五人ほどの政治家が、密室で後継首相に森氏を決定したからである。そのため、新首相の正当性すら国会で質問される事態も起こった。これが、森氏が短期間で首相を辞職せざるをえなくなった遠因なのかもしれない。　　　（ルビ略）

　　　（藤田覚『大江戸世相夜話』中公新書）

 二十年程前の出来事です。